打ち合わせが終わったあと、うちのスタッフが急に真顔になった。
高校三年間、クラスに女子ふたりだったんですよ、と。
えっ、と声が出た。
彼女は笑いながら続けた。彼氏がいた時期もあったけど、あれって恋愛だったのかな…って、いまだに思うんですよね、と。
まず、女子は実際どれくらいいるのか
学科が違えば、まるで別の高校
機械科と電気科は、四十人のクラスに女子がひとりかふたり。ゼロの年もある。
一方で建築、化学、情報、デザイン系になると、女子が二割から四割まで跳ね上がる学校がある。同じ校舎の中で、廊下ひとつ挟んだだけで景色が変わるのだ。
私は、ここで学校生活の八割が決まると思っている。校名で悩んでいる人が多いけれど、悩むべきは学科のほう。学校案内の後ろのほうに載っている在籍数を見るだけで、三年間の空気がだいたい読める。
実習の日、教室はこうなる
作業服に着替えて、髪をまとめて、保護メガネ。足元は安全靴。
髪を巻いてきた朝の努力が、一限目で全部消える(笑)。ネイルも当然できない。
班に分かれて機械の前に立つと、女子だから、みたいな遠慮は割とすぐ消える。ドリルの前では全員が同じ作業者だから。
放課後、着替えた瞬間にみんなの空気がふわっと戻る。あの落差、経験した人にしか分からないやつ。
モテる、という噂の正体
三つの条件がたまたま重なっているだけ
希少であること。毎日顔を合わせること。比べる相手がいないこと。
この三つが揃うと、人は人を好きになりやすい。心理学でいう単純接触の話にほぼそのまま当てはまる。工業高校はクラス替えがほとんどなく、実習の班まで同じ。三年間、朝から夕方まで同じ顔ぶれ。
つまり、モテているのではなく、モテる装置の中に立っているという状態。
はっきり言うけれど、これを実力だと思い込むと、あとでしんどくなる。逆に、だから自分には価値がないと思い込むのも、同じくらいもったいない。
告白されるほど、自信がなくなっていく
以前ご一緒したインフルエンサーの子が、まさにこの環境の出身だった。
在学中に告白された回数、両手じゃ足りないらしい。すごいですね、と言ったら、彼女はしばらく黙ってからこう言った。
嬉しくなかったんですよね、と。
女子が三人しかいない教室で選ばれても、それは選ばれたことになるのか。頭のどこかがずっとその計算をしていたそうだ。
だから告白されるたび、心がざわっとした。ありがとう、と言いながら、自分の価値が一ミリも増えていない感覚。
これ、恋愛の悩みの顔をした自己評価の悩みなんだよね。
外の世界では通用しないのでは、という恐怖
物差しが変わるだけで、価値は減らない
校内で人気があった子ほど、卒業前にこわくなる。
ここを出たら、私なんて普通なんじゃないか。
その不安、九割は取り越し苦労だと私は確信している。
理由はシンプル。学校で起きていたのは希少性による評価で、社会に出てから効くのは中身のほうだから。物差しが入れ替わるだけであって、あなたが目減りするわけじゃない。
実際、男性の多い環境を三年間くぐった女性は、初対面の男性に対する緊張がびっくりするほど低い。合コンでも職場でも、そこで一気に差がつく。本人だけが気づいていない武器。
逆に、まったくモテない子もいる
全員がちやほやされるわけじゃない。
むしろ、性別を丸ごと消される側に回る子がいる。妹枠と戦力枠。かわいがられてはいるけれど、恋愛対象としては最初から数に入っていない、あの位置。
おい、これ運んで、と当たり前に呼ばれる関係は居心地がいい。信頼されている証拠でもある。
ただ、女子として見られない三年間は、じわじわ効いてくる。
希少価値で消費されるか、性別を消されるか。どちらも共通しているのは、個人として見られていないこと。ここが一番深い傷になる。
校内恋愛は、普通科より確実に難しい
噂の伝わる速度が、とにかくおかしい
昼休みに手をつないだ話が、六限には別の学年まで届いている。
女子が少ないから、話題の中心になりやすい。誰と誰が、という情報は工業高校では最上級のニュースなのだ。
付き合い始めたその日から、教室がざわざわし続ける。
別れたあとに逃げ場がない
クラス替えがない。実習の班も変わらない。同じ工具箱を挟んで、あと二年半。
普通科なら教室を移れば済む話が、ここでは済まない。別れる、断る、揉める。そのコストが数倍に膨らむ。だから最初から動けなくなる子が本当に多い。
断ったあとに気まずくなるのが怖くて、なんとなく付き合ってしまった。そういう話を、私は何度も聞いてきた。
それ、優しさじゃなくて逃げ場のなさが選ばせてる。気づいてほしい。
恋愛より先に、効いてくるもの
同性の友達がいない三年間
工業高校の女子は恋愛でも、本当の困りごとはこっちにあると思っている。
生理のこと。下着のこと。体調が悪い日。ちょっとした愚痴。
男子には言えないし、女子は二人しかいなくて、しかもその子と気が合うとは限らない。合わなかったら、詰む。
うちのスタッフが言っていた。彼氏より、女子の友達がほしかった、と。
これ、めちゃくちゃ本質を突いていて、聞いた瞬間ずしんときた。
だから校外に居場所を作っておく。部活、委員会、他校との合同行事、バイト、趣味のコミュニティ。学校の中だけで人間関係を完結させないこと。私はこれが三年間を守る一番の方法だと思っている。
困ったときに頼れる大人を、先に決めておく
体調のことも、からかいや行き過ぎた言動も、ひとりで抱えないでほしい。
保健室の先生は、こういう相談を受けるのが仕事の人。担任に言いにくいことも、養護教諭になら通ることが多い。学校に相談しづらければ、自治体や公的な相談窓口を使うという手もある。
言いにくいなら、体調のことです、と入口だけ作ればいい。
この環境を、どう使い倒すか
気づかないうちに手に入っている力
男性ばかりの場所で普通に話せる。頼み方が分かる。強く言われても引かない。
社会人になると、これがとんでもない差になる。会議室でも現場でも、女性ひとりという状況にドキドキしなくなるから。
面接で話すべきなのは資格の数だけじゃない。男性中心の環境で三年間やってきた、という一行が持つ説得力を、本人が一番なめている。
急がないほうが、結果的にモテる
校内の恋愛に全力を注ぐと、母数の少なさに人生を握られる。
そうじゃなくて、外に世界をひとつ持っておく。習い事でも、SNSでも、バイト先でもいい。校内での評価が絶対じゃないと分かった瞬間、態度が変わる。焦りが消えて、余裕が出る。
その余裕こそが、いちばんモテるんだよね。

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